21世紀COEプログラム同位体が拓く未来−同位体科学の基盤から応用まで−
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融合展開分野 環境・生命部門


1.同位体比を用いた森林内炭素循環研究


2.ラドン同位体をトレーサとする東アジア域大気輸送現象の研究


3.サケ卵細胞に関するメタロミクス研究


4.PIXON 型画像回復法の分光データおよび医療画像への応用


5.同位体水環境下における遷移金属表面に吸着したL-システインの研究

 


1.同位体比を用いた森林内炭素循環研究


地球温暖化ガスCO2の吸収源として重要な役割を果たしている森林での炭素の動態を,大気中CO2,土壌ガス中CO2,土壌有機物等の炭素同位体比(13C/12C, 14C/12C)を用いて評価するための方法の開発と寒冷地を代表するカラマツ林での測定を実施している(図1).


図1 カラマツ林における炭素循環の観測の模式図.

土壌呼吸CO2や大気中CO2は,炭素動態に応じた同位体比変動を示し,その特徴から短い時間スケールの炭素循環の評価が可能であることが示された.土壌呼吸CO2の炭素同位体比は季節・時刻で大きく変動し(図2),その変動はCO2が根呼吸と土壌有機物分解寄与割合や土壌有機物の深さのを反映していることが測定の結果示された.例えば,炭素14の同位体比は暖候期は午前中に極大をもつ傾向があり,炭素13の同位体比はそれと逆相関を持つ.


図2 土壌呼吸CO2の炭素同位体比.

これらの特徴は,核実験の影響や光合成での同位体効果により,大気中CO2,植物・リター,土壌有機物が異なる炭素同位体を持つことによる.図3に示した土壌有機物の炭素14同位体比は,表層数cmの有機物含有量の大きい層で核実験による高い14C同位体比を持ち,ここでの有機物分解が大きい場合に,土壌呼吸CO2の炭素14同位体比が増す.


図3 土壌有機物中の炭素14同位体比.

この特徴を利用し,炭素14同位体比を用いて土壌呼吸を成分別に評価した結果を図4に示す(図2とは異なる年).根呼吸は春期から初夏にかけて土壌呼吸への寄与が大きいが,気温(地温)が高い時期には土壌有機物分解が大きくなっていることが示されている.


図4 炭素14同位体比から評価した土壌呼吸の成分.

【発表論文】
  1. W. Liu, J. Moriizumi, H. Yamazawa and T. Iida, "Depth Profiles of Radiocarbon and Carbon Isotopic Compositions of Organic Matter and CO2 in a Forest Soil," J. Enviro. Radioactivity 90 (2006) 210-223.

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2.ラドン同位体をトレーサとする東アジア域大気輸送現象の研究


自然界に存在するラドン同位体は,地表を発生源とする点で他の汚染物質と類似性があり,希ガスであることから大気中での反応・除去は僅少で大気中での輸送を追跡する上で好適なトレーサ物質である.特に,222Rnは半減期が3.8日で,数千kmの水平スケールの輸送現象に適する.そこで,本COEでは国内外の大学,研究機関との協力により図5に示す大気中ラドン濃度観測ネットワークを構築し,観測を行ってきた.


図5 東アジア域大気中ラドン濃度観測網.

例としてソウル,浜岡及び八丈島で測定された地上濃度を図6に示す.浜岡では近傍起源ラドンによる濃度の日変動が顕著に見られ,八丈島では日変動は無い.現地での地表面からのラドンフラックスの測定や数値モデル解析により,八丈島で測定されているラドンは大陸及び日本本土からの長距離輸送ラドンであることが示された.ソウルでは濃度は日中の低濃度時の値のみプロットしてあり,実際には浜岡以上に大きな濃度日変動を示す.何れの地点でも,夏に比べて冬に濃度が高くなっており,大陸から太平洋上への物質輸送は冬季に顕著になることを表している.


図6 八丈島,浜岡,ソウルにおけるラドン地上濃度の測定結果(2005年).

ラドン及びその他の物質のアジア域での大気輸送計算モデルを開発した.観測で得られたラドン濃度を用いてモデルの検証を行ったところ,春及び秋の周期的な濃度変動を極めて良く再現できるものの冬季に地上濃度を過小評価する傾向が開発当初には指摘された.大気乱流モデル及び数値計算法を改良した結果,過小評価傾向はほぼ解消された(図7).長期のラドン大気輸送シミュレーションを行ったところ(図8,動画),日本上空では大陸からの長距離輸送ラドンにより濃度場が形成されており,その濃度が降雨中のラドン壊変生成物濃度に大きく影響していることが示された.


図7 表層大気中におけるラドン濃度:モデルに基づく計算値と観測値との比較.


図8 表層大気中ラドン濃度の水平方向分布(動画,9.8 MB).

【発表論文】

  1. W. Zhuo, T. Iida and M. Furukawa, "Modeling Radon Flux Density from the Earth's Surface," J. Nucl. Sci. Technol. 43(4) (2006) 479-482.
  2. K. Yoshioka and T. Iida, "The Diurnal Change in the Vertical Distribution of Atmospheric 222Rn Due to the Growth and Rise of the Stable Stratification Height in the Atmospheric Boundary Layer," Radioactivity in the Environment 7 (2005) 489-496.

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3.サケ卵細胞に関するメタロミクス研究


メタロミクス(Metallomics)とは,本研究グループ代表者である原口が提唱する新学問領域で,日本語では「生体金属支援機能科学」と提案している.メタロミクス研究は,生体中の金属元素(正確には,金属イオン)の分布,化学形態(化学種),構造,代謝などの生物学的機能を総合的に研究する学問分野として提唱するものである.健康科学,環境科学,毒性学,栄養学などと関連して,既成の学問分野である生化学,医学,薬学,農学,植物学等における金属元素を取り扱う研究分野を統合して,新しい学問領域として再編し,体系化することを目的としている.

★サケ卵細胞中全元素分析への挑戦
天然・人工放射性元素と希ガス元素を除く周期表中の全78元素で,定量できた元素が59元素,検出された元素が13元素であり,合計72元素の存在が明らかになった(図9).サケ卵細胞中全元素の存在がほぼ明らかになった.

★サケ卵細胞中ヒ素の化学形態別分析
サケ卵細胞中にヒ素が約200 ppb含まれているが,このヒ素の存在形態(化学形態)について,イオン会合系のクロマトグラフィーとICP-MS を複合した分析システムによる研究を行った.図10上部にはサケ卵細胞内液,下部には細胞膜について,HPLC/ICP-MS 複合分析システムを用いて測定したヒ素選択性検出クロマトグラムを示す.細胞膜において無機態ヒ素(ヒ酸)から有機態ヒ素(アルセノベタイン)への物質変換が起っていることを示すもので,興味ある結果である.


図9 イクラ卵細胞1個中に検出された元素.


図10 イクラ卵細胞内液および細胞膜中のヒ素化合物の化学形態別分析.

※本成果を紹介する記事が,日本工業新聞(2003年7月9日)に掲載された.

【発表論文】
  1. H. Haraguchi, "Metallomics as Integrated Biometal Science," J. Anal. At. Spectrom. 19 (2004) 5-14.
  2. H. Matsuura, T. Kuroiwa, K. Inagaki, A Takatsu, and H. Haraguchi, "Arsenic Speciation and Distribution in the Extracts from Salmon Egg Cell Cytoplasm and Cell Membrane by HPLC/ICP-MS," Biomed. Res. Trace Elem. 15 (2004) 37-41.

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4.PIXON 型画像回復法の分光データおよび医療画像への応用


量子ノイズに埋もれた微弱信号を取り出すためにPIXON 法と呼ばれる画像処理アルゴリズムに我々は着目し,スペクトル解析および放射性同位元素を用いた医療における画像への応用展開を目指す.

PIXON 法はベイズ定理に基づく画像処理アルゴリズムの一種でありノイズ識別能力が高い.そこで我々はイメージングプレート(IP)によって撮像した甲状腺ファントムの画像回復への応用を試みた.従来のガンマナイフに比べ,多数のエネルギーにわたる放射線をすべて取り込むために,同じ画像を得るために必要なドーズを低く抑えることができ,患者への負担を軽減できる.甲状腺ファントムに放射性核種Na125I 水溶液を満たして得たIP画像と単純なPIXON処理した復元画像を図11に示す.大きく広がってぼけた全画像に比べ,復元画像ではファントムの形や放射線の強度の違いがかなり復元されていることが判る.


図11 IP元画像(左)とPIXON処理による画像回復結果(右).

問題点としては放射線を発しているファントムの各部とIPとの距離が異なるため,厳密には正しいdeconvolutionができない点である.これについては処理アルゴリズムの大幅な見直しを含むため,かなりチャレンジングな課題となるが,究極的な目標としては三次元的な濃度分布を再構築できるようなトモグラフィーへと発展させたいと考えている.

【発表論文】

  1. S. Muto, R. C. Puetter and K. Tatsumi: Spectral restoration and energy resolution improvement of electron energy-loss spectra by Pixon reconstruction: I. Principle and test examples, J.Electron Microsc. 55 (2006) 215-223.
  2. S. Muto, K. Tatsumi, R. C. Puetter, T. Yoshida, Y. Yamamoto and Y. Sasano: Spectral restoration and energy resolution improvement of electron energy-loss spectra by Pixon reconstruction: II. Application to practical ELNES analysis of low SNR, J. Electron Microsc. 55 (2006) 225-230.
  3. K. Tatsumi, S. Muto and T. Yoshida: Detection of hydrogen at localized regions by unoccupied electronic states in iron carbides: Towards high spatial resolution mapping of hydrogen distributions, J. Appl. Phys. 101 (2007) 023523-1-7.
    本論文はPhysics Today が選ぶVirtual Journal of Nanoscale Science & Technology の2007年2月12日号にも掲載された.

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5.同位体水環境下における遷移金属表面に吸着したL-システインの研究


生体を構成している最小単位はアミノ酸と考えられ,生体内は常に水環境にさらされた状態であると言える.一方硫黄を含有する分子(含硫黄分子)と金属との反応は非常に激しく反応が推移し,安定な化合物を形成することが知られており,多くの産業分野において含硫黄分子と金属の反応に関する研究は多くの注目を集めている.生体中に存在する含硫黄分子であるアミノ酸の一つはL-システインである.L-システインは遊離アミノ酸であり,需要な役割を果していると考えられているがその詳細は不明である.医学の進歩に伴い多種多様な金属製インプラントの移入や装着が行われているが,それらの表面とL-システインの反応についての研究は,まだ未開拓な部分が多く存在する.また同位体水分子に注目すると,軽水に対して重水の電離度が極端に小さい(約1/7)ことを活用することで,L-システインの吸着反応に何らかの変化が生じると期待できる.本研究では,身近な遷移金属であるニッケルや銅の表面でのL-システインと同位体水分子との共吸着についてその反応を明らかにすることを目的とする.


図12 各試料に対して測定した硫黄K吸収端NEXAFSスペクトル.

図12はL-システイン粉末,L-システイン水溶液(軽水) ,ニッケルまたは銅基板に軽水環境で吸着したL-システインの各試料に対して測定した硫黄K吸収端NEXAFSの結果をまとめたものである.まず粉末と水溶液のスペクトルの比較より,L-システインのS-C結合は,水溶液中ではその距離が幾分か伸びていることが明らかとなった.次にニッケルと銅基板表面についての試料では,ほぼ同じエンルギー位置に2つのピークが観測されたが,低エネルギー側はL-システインのS-H結合が切れて生じたシステインチオレートの形で吸着していることを示しており,高エネルギー側のピークはシステインチオレートの硫黄原子まわりに3個から4個の水分子が配位結合した状態であることを表していることがわかった.ここでは示していないが,水環境に置かれた試料を乾燥させると高エネルギー側のピークが完全に消失する結果が得られ,システインが解離して硫黄が原子吸着状態となっていることが明らかとなった.このことから水環境中においては,水分子がシステインの硫黄原子周りに配位結合をすることでシステインの解離を防止し,かつ吸着構造を安定化させているのではないかと推測している.

【発表論文】

  1. S. Yagi, Y. Matsumura, T. Nomoto, K. Soda, E. Hashimoto, H. Namatame and M. Taniguchi: Liquid-solid interface of L-cysteine/TM (TM = Ni and Cu) in aqueous solution by means of sulfur K-edge NEXAFS, Surf. Sci. in press (2007).
  2. Shinya Yagi, Toyokazu Nomoto, Takaki Ashida, Kazuya Miura, Kazuo Soda, Kazue Yamagishi, Noriyasu Hosoya, Ghalif Kutluk, Hirofumi Namatame and Masaki Taniguchi: XAFS Measurement System for Nano, Bio and Catalytic Materials in Soft X-ray Energy Region, AIP Conference Proceedings 879 (2007) 1638-1641.

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Copyright: 2003-2007, Nagoya University